2024年夏,複数の国内大学院(いずれも情報系)を受験した.後続の受験生たちの参考になることを願って,ここに記録を残す.
入試関連情報のなかで全世界への公開は控えるべきと思われるものや,友人・知人たちのセンシティブな情報が掲載されているために割愛した箇所を「■■■」で示している(「■■■」の文字数と割愛した箇所の文字数には関係がない).この箇所の閲覧を希望される読者は筆者に直接連絡されたい.
筆者の基本的な情報は以下のとおりである.
院試受験理由:学びたい分野の研究室が自大になかったため.
GPA(4年春学期終了時):2.73
TOEFL iBTスコア(出願時):85
受験した専攻(志望順)と合否:
東京大学 情報理工学系研究科 創造情報学専攻(不合格)
慶應義塾大学 理工学研究科 開放環境科学専攻 情報工学専修(合格)
早稲田大学 基幹理工学研究科 情報理工・情報通信専攻(合格)
前史(読み飛ばし可)
B2以前
中学生の終わりごろから,情報系のとある分野に関心があった.暇にあかせて調べものをし,その分野で著名な国内の研究室名はだいたい把握していた.ひとつは今回受験することになった東京大学のものであり,もうひとつは中部地方のとある大学のものである.
高校3年生になり,国立前期は東京大学理科一類を受験した.国立後期は例の中部の大学を受験しようとしたが,ときは2020年暮れ,COVID-19禍のただなかであり,弱気になった保護者のひとりから「東京より西に住まれてしまうと万が一のときに帰省がしづらくなる(筆者は東北出身)ので,東北か関東の大学を受けてほしい」と懇願され,後期は関東の(特に関心のなかった)某大学情報系学科を受験した.また早稲田大学基幹理工学部(募集時の学科区分はない)を受験した.
結果,東大は不合格,早大と後期受験の某大に合格し,早大に進学した.
B1からB2に進級して情報通信学科所属となった.B2の4月には外部院進を頭の片隅で考えていたようで,外部院進を果たした先輩とのオンライン懇談会に参加した形跡がある.B2の9月,秋学期最初の学科オリエンテーションがあった.オリエンテーション担当教員に,関心がある分野とその研究が行える学科内の研究室について質問すると,「その研究をしている研究室はウチにはありません.ほかの大学に行ってください」と端的に回答された.それまでは,早大でも筆者の関心を突き詰めていくことは可能と漠然と思っていたので,こうもはっきりと否定されたことに軽く衝撃を受けた.この頃から外部院進の選択肢が現実的なものとして意識されてきた.余談だが,■■■.
TOEFL①
東大院試にはTOEFLが必要であることを知り,B2の終わりにはじめてTOEFLを受験した.このとき,早大基幹理工学部のTOEFL受験料補助制度を利用した.
早大は学生思いの施策が多い.各種試験受験料補助のほかにも,マイノリティ属性をもつ学生たちの困りごとを掬いあげるシステム(GSセンター,障がい学生支援室)が整備されていたり,青い制服(株式会社早稲田大学プロパティマネジメント)の清掃員の方々が不断に動いてくださっているおかげで,校舎が常に美しく保たれていたりと,総合的に言って日本でトップクラスに快適なキャンパスライフを送れる大学であることは間違いない.高い高い学費はその代償である.
余談はさておき,TOEFL受験(1回目)の結果は以下のとおりである:
- Reading 22
- Listening 17
- Speaking 16
- Writing 19
- Total 74
この時点で,「東大情報理工学系研究科に出願するならTotal 80はほしい」といった情報は仕入れていたので,鍛錬の必要を感じた.感じただけである.
B3
B3秋,■■■.
2024年2月~3月
本格的に院試勉強をはじめる
東大情報理工学系研究科の過去問を公式サイトで確認.あまりにも問題が意味不明すぎて頭が真っ白になった.それもそのはず,B1必修の線形代数,微分積分,B2選択の確率統計,ほぼ何も覚えていないのだった.志望専攻の専門科目にいたっては,そもそも学部で履修した覚えのない内容もあった.
とくにB1の数学はなぜ単位がとれたのか当時から不思議だった.あわててマセマの線形代数と微分積分を購入.悲鳴を上げながらも線形代数を1周し,微分積分は後半はかろうじて覚えていたので前半のみ1周した.
TOEFLに向けて
2回目のTOEFL受験を見据え,以下に取り組んだ.
- 『TOEFL®︎テスト英単語3800』(旺文社):Total 80到達を目標としたため後半の難度の高い語彙はオーバーワークと考え,Rank1・Rank2のみを集中的に暗記した.
- ポッドキャスト『TED Talks Daily』:毎日1タイトル聴く.最初はスクリプトなしで通して聴き,次に公式サイトのスクリプトを読みながら内容が理解できるまで聴く.
その他
早大で上級生だった知人が,■■■.
プロ研も終わりに近づき,■■■.
2024年4月
研究室訪問
東大の研究室訪問はZoomで行われた.教員はこちらが拍子抜けするほどフレンドリーで,受験時に選択すべき科目のアドバイスや,志願倍率の内実まで教えてくださった.詳しくは■■■.
また,■■■慶大に志望分野の教員が着任したので,アポイントをとってお会いした.生まれて初めて訪れた慶應義塾大学矢上キャンパスは立地が最悪(最寄駅から徒歩20分,階段と急坂を上り下りしなければたどり着けない.車椅子の学生とかどうするんだろう?)で,周辺にお手頃価格の飲食店もほぼ見当たらない.東京メトロの駅に直結し,明治通り・早稲田通り沿いにラーメン屋と定食屋のひしめく早大西早稲田キャンパスとは天地の差であった.「できたばかりで,なにもないけれど」と研究室をお見せいただく.がらんどうで,研究資源が床に雑然と置かれっぱなしだったが,これはこれで新天地を感じさせてわくわくさせられた.
慶大筆記試験の過去問は非公開であり,外部生はメールで請求する必要があるが,請求するとすみやかに送られてきた.一見してあまり難しそうではないことを確認した.
受験校決定
早大の春学期が始まり,■■■.
(読み飛ばし可)早大理工学術院に所属するB4の大半は「推薦入試」で院進する.①成績が一定基準を満たしていること・②進学希望の研究室が現在所属している研究室と同一であること・③その研究室への進学を確約できること,の3要件を満たす場合のみ,推薦の資格が与えられる.そうでない場合は外部生と同じく「一般入試」を受験する.筆者の場合は,①②は問題ないが第一志望が他大院だったため③のみを満たさず,一般入試にいどむこととなった.
TOEFL②
TOEFLをふたたび受験した.結果は以下のとおりである:
- Reading 25
- Listening 27
- Speaking 14
- Writing 19
- Total 85
非常に満足のいく結果であり,各研究科にはこのスコアで出願した.
2024年5月
東大の公式な院試説明会に参加したが,特に新しい情報は得られなかった.
情報理工学科の同学年の友人が,■■■.
2024年6月
出願①②
東大,早大に出願した.受験料が地味にお高く,財布を痛めつける.志望理由の欄を埋めるのにやや苦労した.書けることは書けるのだが,文字数が稼げず,下書きをChatGPTに投げて「○○字に膨らまして」と指示すると,筆者が思ってもないような嘘でたっぷりと肉付けされたものが返ってくる.ChatGPTはやはり完璧には程遠いのだと感じつつ,最終的には自分の力だけで書いた.
院試勉強
いちばん差し迫った試験は早大なので,友人とほぼ毎日キャンパスで顔を合わせたり通話をつないだりして過去問を解き,ひとりの時間で東大や慶大の過去問も解き,さらには卒業研究もやった.友人に尻を叩いてもらった早大対策以外はどれも中途半端だった.ひとりで黙々と勉強するよりも,他人とわいわいやるのが向いているということに,この歳で初めて気づいた.
同じ時期,■■■.
他大過去問はマセマを1周したところで手も足も出るはずがないので,次のようにしていた.まずChatGPT(4oでは画像を読み込ませられる)に問題のスクショを送って解かせる.そこはChatGPTなので平気で嘘をつくから,計算は手法や方針だけChatGPTの出力を信用し,あとは手計算でやる.記述問題は出力されたキーワードをググって,複数のサイトの主張を突き合わせて正しそうなものを採用する.学部の講義資料は必要に応じて参照する.といったことをやっていた.ChatGPTがなければ院試勉強全体がほんとうにどうにもなっていなかったと思う.
2024年7月
出願③
慶大に出願した.思った以上に志望理由の文字数を書かせるので怯んだ.
早稲田大学基幹理工学研究科一般入試
7月13日(土)早大1日目.筆記選考.9:30集合,10:00開始,13:00終了.
会場は52号館.学部なら専門選択の講義をやるような小規模な教室に,情報理工・情報通信専攻志望者が全員収まっており,ここで院試の規模感を初めて知る(早大理工学術院は院試志願者数・倍率をいっさい公表していない).空席もちらほら.
大問は全4問.解答用紙には各小問の解答欄が明示されている.試験後,問題冊子は持ち帰る.
- 第1問:「科目名:情報基礎」.情報数学(オートマトン),アルゴリズムとデータ構造(スタック・キュー,疑似コード).情報数学は未履修で,過去問をいちおうやったが頭に入らずまるまる白紙で提出.アルゴリズムとデータ構造は完答.
- 第2問:「科目名:計算機システム」.オペレーティングシステム(ページテーブルとか).学部講義の期末試験とほぼ同じ問題.
- 第3問:「科目名:回路」.回路理論(テブナンの定理とか),論理回路(全加算器).回路理論は過去問をちゃんとやっていれば解けたが,計算ミスに途中で気づき無駄に時間を使ってしまった.論理回路は同名の学部講義の期末試験とほぼ同じ問題.
- 第4問:「科目名:情報通信ネットワーク」.OSI標準モデルに沿ってデータリンク層,TCP/IPあたり.同名の学部講義はおもしろく,学生からの評判もいい(必修でそういう講義は極めて珍しい)ので,早大内部からの志望者にとってはその講義を彷彿させる楽しい大問だったのではないかと思われる.個人的には,とくに16進表記のパケットヘッダを解読する問題がエキサイティングだった.
終了後,同じ教室で受験していた顔見知りたちと合流し,西早稲田キャンパスにほど近い名店「ひまわり」でボリューミーな定食をかっ喰らいながら,「ボーダー・倍率はどのくらいか」「あしたの試験はどう対策すればいいか」「不合格だったらどうするか」など,考えても答えの出ないことを延々と話し合った.
7月14日(日)早大2日目.面接選考.12:30集合.14:00ごろ終了.
二人三脚していた友人からは「卒業研究のプレゼンをするため,PowerPointスライドの準備が必要」と聞かされていたが,受験要項にそのような記述を発見できていなかった.前日になってようやく,その指示があることに気づく.要項を読むのが下手すぎる.あわててスライドを作成.研究室での全体に向けた中間発表を控えていたため,そちらのためにもいい準備になった.
自大院試とはいえ面接ということで,友人は念のためリクルートスーツを着ると聞き,筆者もアイシーブルー無地のポロシャツにきれいめの黒チノを選択した.しかし,いざ会場に着いてみると,Tシャツにジーンズなど非常にラフな格好の受験生も散見された.
受験生はまず,54号館の2つの教室に分かれて待機させられる.そこからさらに5人1組程度のグループに分割され,グループごとに受験番号の若い順から一人ずつ別室に移動する.移動した先の教室にはスクリーンとスライド投影用の設備が用意され,5人程度の教員が聴講席に座っている.なお,そのなかに志望研究室の教員がいるとは限らない.筆者の場合は必修講義で少し会話したことのあるだけの教員,もしくは顔だけ知っている教員という布陣だった.
スライドを用いて「10分程度の発表」を行うことと規定があったものの,話すことがなさすぎて4分ですべてのスライドをめくり終えてしまった.即座に質疑応答に移る.
- 「なぜこの研究に着手しようと思ったのか」→「研究室で取り組んでいるプロジェクトのなかで,最も自分の関心に合致したから」という内容を丁寧に.
- 「~~といったアプローチで取り組むともっとよいのではないか」などといった,卒研をやるうえで素直に有益なアドバイス→「考えたことがありませんでした,参考にいたします」
普段から表情が柔らかめの教員がたまたま揃っていたからかもしれないが,全体的に優しげな印象を受けた.
早大院試後
7月26日(金),理工学術院公式サイト上で合否発表.合格.友人も合格しており,喜びを分かち合った.前述のとおり,早大理工学術院は院試志願者数・倍率をいっさい公表していないが,受験番号の並びから推測するに理工学術院全体で志願者は880~890人程度,合格者は351人,倍率は2.5倍程度と思われる.
合格発表直後,■■■.
前後するが,7月16日(火)に東大の書類審査の結果が通知され,合格であった.もっとも,これは出願書類に不備があった迂闊な学生や冷やかし半分で出願する者(例年いるらしい)を落とすためのもの(と推測する)であって,ここで落ちることはまずない.
7月下旬から,外部院進志望者のコミュニティが実施する,東大情報理工学系研究科の過去問を解くオンライン自主ゼミに参加した.研究室の進捗ゼミ出席が必須の期間,聴講のみ参加すると主催者に伝えた.
2024年8月
院試勉強
研究室ゼミ出席が任意となったタイミングで,オンライン自主ゼミで専門科目の問題解説を一部引き受けることにした.ほぼ毎日,主催者から過去問を受け取っては解いた.試験日が近づくと,以前解いた問題を解き直し,ことしの本番では何が出そうか予想しあう日も増えていった.
また,受験予定の専門科目(電子情報学)で今年から新たに「最適化と機械学習」が出題されるとの予告があった.UTokyo OCW(東大が公式に公開している,講義資料や映像をまとめたデータベースサイト)内で該当していそうな講義を探し,早大の学部講義でも似たようなことはやっていたので思い出しがてら,凸関数,勾配降下法あたりをおさえた.
数学については,最後の数日間は自主ゼミに参加したが,マセマの復習や黄色本をメインでやった.(先駆者の評判のとおり)黄色本は解説が意味不明で苦しんだ.友人からの遊びの誘いはすべて断り,8月中旬以降はバイトも休ませてもらってひたすら勉強した.
受験不可の可能性
ここにきて各校の募集要項を読み返して,東大口述試験と慶大記述試問の日付が同じであることに気づく.要項を読むのが下手すぎる(2度目).慶大記述試問は時刻まで明示されているが,東大口述試験は日付しか情報がなかった.まだ詳細な時間割を決定していないのだと思い,入試チーム窓口に陳情メールを送れば試験開始時刻について取り計らってもらえると思ったが,無駄であった.
両試験の時刻が被っていた場合,どちらか1校の受験自体を諦めなければならない.東大口述試験の時間割が発表されるまで生きた心地がしなかった.けっきょく被っていなかったので九死に一生を得た.
東京大学情報理工学系研究科一般入試
8月15日(木),東大1日目.筆記試験(一般教養科目・数学).12:30集合,13:00開始,15:30終了.
会場は法文2号館大講堂.高3の2月の学部受験と同じ教室で,トラウマがよみがえった.空席もちらほらある.
大問は全3問.大きなまっさらな解答用紙が3枚配布される.試験後,問題冊子は回収.
- 第1問:線形代数.おそらく最適化と機械学習への応用を想定した問題.さっぱりわからない.とりあえず最初の3問くらい適当に書いた.
- 第2問:微分方程式.最初の小問は見た瞬間に1階線形とわかり楽勝.そこからがつらい.がんばって埋めたが完答は無理.
- 第3問:確率.状態遷移図が書ければあとは楽勝,高校生でも解ける.最後の小問だけめんどくさそうだったので飛ばす.
全体的な出来は5割……いけば上々だろう.この時点で「落ちたかもしれない」と感じ,当日夜実家の親に電話して早大院・慶大院の学費について伝えた.
8月19日(月),東大2日目.筆記試験(専門科目・電子情報学).9:30集合,10:00開始,12:30終了.
会場は工学部2号館1階大教室.受験生の大半は集合時刻よりも前に到着していたが,集合時刻にならないと教室が開錠されないため,教室周辺の冷房のない廊下で,暑さをこらえ三々五々たむろした.欠席者はやはり数名いたが,特筆すべき多さではなかった.
大問5問中3問を選べばいいので,第2問,第4問,第5問を選択した.薄い罫線が引かれた解答用紙が3枚配られ,1枚ごとに1問を解答する.それとは別に計算用紙が配られる.問題冊子は日本語と英語両方が全員に配布される.試験終了後,問題冊子・計算用紙は回収.
- 第1問:回路理論.勉強していないし過去問すら解いていない.事前の作戦どおりに飛ばす.
- 第2問:論理回路.楽勝.得点源.最後の小問は時間がかかりそうだったので飛ばし,余った時間で考えてアイデアだけひらめいたので書きつけておいた.
- 第3問:アルゴリズム.苦手意識があり,有向グラフの問題設定はどこかで見たことがあるようなものだったが飛ばす.
- 第4問:最適化と機械学習.今年から新たに追加された科目.行列の偏微分さえできれば楽勝なのだがその行列の偏微分に自信がない.とりあえず書けるところまで適当に書いておく.
- 第5問:覚えていない.たぶん通信理論か信号処理.たぶんそこそこ埋めた.
全体の出来は7割いけば上々だろう.論理回路がコケてないことを祈る.
8月21日(水),東大3日目.口述試験(創造情報学).15:30集合.16:00ごろ終了.
(おそらくはCOVID-19禍以降)面接はオンライン実施である.受験者は7人1組に分かれて,グループごとに10:00から16:40までの集合時間とZoomミーティングルームURLを割り当てられる.集合後,受験番号の若い順に呼ばれて1人あたり最大7分の試問を行う.筆者は15:30に待機室に入室.オンライン面接にもかかわらず数名欠席者がいたため,予期していたよりも早く面接がスタートした.
受験番号と氏名を宣言したのち,最初に「卒業研究の内容と志望動機」を訊かれる.受験要項では「志望動機を1~2分程度で」とあり,1.5分程度に収まる志望動機を用意していたため,卒業研究の内容も問われるとは予想しておらず若干パニックになった.早口で喋りまくってなんとか2分以内に収まった.
ミーティングルーム内には志望研究室の教員がいたが,4月の研究室訪問時の朗らかさが嘘のように険しい顔をしていた.
- 「ウチでやりたいことをたくさん挙げてくれましたが,そのなかからひとつ選ぶとすると?」
- 「理論的なことをやりたいですか,応用に興味がありますか?」
- 「いま世に出回っている技術と,あなたが研究で実現したいことはどのように違いますか?」
- 「どんな応用例を想定していますか?」
矢継ぎ早に繰り出される質問に筆者が詰まると,「(この質問は)難しいですか?」と問われた.はっきりと恐怖を感じた.必死に脳を回し,長々と語っている間に7分が経過し,時間切れ.「もっといろいろ訊きたいことがあるのですが……」と残念そうな教員を残し,ルームから退出した.
試験が終わって自室の窓の外を見ると,まだ日は落ちていなかった.近い未来のありうる自分が脳裏に浮かんだ.不合格通知を前に弱気になり,「信心が足りなかったのではないか」とあらぬことを考えてしまう自分.そうはなりたくない,そんなつまらないことに後悔のすべてを託したくないと,地下鉄に飛び乗って湯島天神へ向かい,賽銭箱に5円玉を投げ入れた.
慶應義塾大学理工学研究科一般入試
8月21日(水),慶大1日目.記述試問.9:30集合,10:00開始,12:00終了.
会場は14号館.日吉キャンパスにいちばん近く,日吉経由で歩いてキャンパス入りする大半の学生にとって優しい立地.
受験する専攻ごとに小教室に分かれるが,各専攻の受験者が少ないため,3つ程度の異なる専攻の受験が1つの教室で行われるようだ.筆者と同じ専攻の志願者は18人.空席が3席あり,実際の受験者は15人.公表されているデータによると例年倍率は1.1倍程度ということだが,おそらく欠席者しか落ちていない.試験監督は2人しかいない上に集合時間になっても入室してこないなど,かなり緩い雰囲気.
大問は全4問.薄い罫線の引かれた解答用紙4枚がホチキスで綴られて配付され,1枚ごとに1問を解答する.試験後,問題冊子は持ち帰る.
- 第1問:卒業研究についての説明.テーマ名,概要,社会的意義.また,卒業研究に必要となる技術とその動向についても説明させられる.CLIPやBERTといったMaskingによる自己教師あり学習のやつらについて,研究室から借りた雑誌とウェブサイトで軽く復習して臨んだ.
- 第2問:アルゴリズム.計算量のBig-O記法はさくさく埋めたが,自己採点で間違えていてショックだった.CまたはJavaでユークリッドの互除法のアルゴリズムを2通りに書かせる問題は楽勝すぎて不安.
- 第3問:情報理論とネットワーク.エントロピー,ヤバい勉強してない! 記憶を頼りに何とか埋めた.自己採点したら合っていたようで安心.ネットワークの最短距離を求める問題はダイクストラのアルゴリズムを知っていれば楽勝.TCP輻輳制御は前述の早大の楽しい必修講義をしっかり勉強していればたぶん満点がとれる.いや,慶大の採点者のお眼鏡に適わない可能性もあるが.
- 第4問:フーリエ変換と最適化.パルス波の周波数領域変換は余裕だが搬送波を乗っけた波はめんどくさそうなので飛ばす.最適化は何を訊きたいのかよくわからなかったがとりあえず埋めた.
完答はできなかったので満点はありえないが,これだけ書けてれば個人的には安心できる.
8月23日(金),慶大2日目.口述試問.9:00集合.10:30ごろ終了.
会場は12号館.受験生全員が集合する「集合場所」,そこから9名程度? のグループに分かれて各グループに割り振られる「待機場所」,志望研究室の教員をはじめ3人程度の教員が待ち構える「試問会場」の3種類の教室がある.すべての受験生が9:00に集合するため,午後に試験が入るまで待機しなければならないケースもあるようだが,筆者の「集合場所」には,午後に試験を予定している学生はいないようだった.
「スーツを着ていかないと怒られる」との前情報がネットにあったが,まさかそこまで厳格ではあるまいと,早大面接選考と同じ,アイシーブルー無地のポロシャツにきれいめの黒チノで臨んだ.会場入りすると7割ほどがリクルートスーツで,残りはリクルートではないスーツと,ポロシャツにチノパンのクールビズコーデがほぼ同数だった.
「集合場所」で受験番号を若い順に呼ばれて点呼されたのち,係員の誘導に従って各々の「待機場所」に移動する.係員に呼ばれたらノックをして「試問会場」に入室.
所要時間は10分程度だろうか.東大よりは長かったように思う.
- 卒業研究の内容と志望動機.
- 興味のあるプロジェクトについて,何を成し遂げたいのか(曖昧な尋ね方と感じたが,自分なりに解釈し「理論よりは応用」などと回答).
- 記述試問の出来は自己評価でどうだったか.
- 現在,慶大以外の大学に在学しているが,他大を受けるモチベーションは何か.
- ほかにどこか大学院を受けているのか.ほかの大学院に合格したらどちらに進学するのか.
- 博士課程まで進む予定か.博士号取得後はどうするのか.
- 英語が得意だと自己評価しているが,学校の勉強以外で英語に関して取り組んだことはあるか(高校時代のアメリカ研修の話をした).
- 学部時代の成績証明書を見ると数学の成績がよくないようだが,実際に苦手なのか.
- 情報系を専攻しようと思った理由は何か(高校時代にさかのぼって回答).
- 調書の出身高校の欄をご覧になった教員により,出身県に関する質問(どうでもいいのでは? いちおう回答).
後半,なぜ訊くのかわからないどうでもいい質問がいくつかあった気がしたが,なぜなのかは考えないことにした.少なくともポジティヴな理由だと捉えたいものだ.教員は表情や話し方が柔らかく,優しげな雰囲気だった.ドアを閉めたあと,教員たちがなにか談笑している声が聴こえた.
慶大院試後
8月30日(金)慶大院合格発表.ぶじ合格.
2024年9月
9月2日(月)東大院合格発表.不合格.創造情報学専攻は例年定員より多く入学者をとるので,ことし少なかったのは謎.
総括(感想)
- 学部4年間の積み重ねが重要.B3以下の諸氏は授業をまじめに受けること.
- ほとんどの同級生が院試を経験しないなか,たったひとりで院試に挑むのは,つらい.仲間をなんとかして見つけると精神的にとてもいい.
- 第一志望と第二志望でほとんど研究内容に差がないので,第一志望に不合格でもとくに支障はなかった.これから受験校を決定する諸氏は受けられるだけ受けておいたほうがいい.
- 筆者の受験生活において,助言や激励をくださったすべての方々に感謝をささげる.
